世界大会基準のジェノベーゼとバジルの湯通しについて




パスタやパン、魚介にも合う色彩豊かなペースト、ジェノベーゼ(Pesto Alla Genovese)。それはイタリア・リーグリア州の州都、ジェノヴァ発祥と言われています。 私も野菜専門のスーパーマーケット「地産マルシェ」で新鮮なバジルを見つけると、必ずと言っても良い程ジェノベーゼを作ります。バジルは育てることが簡単なハーブですので、自家栽培もお勧めです。4〜6月が種まきに適しております。

ジェノベーゼの作り方についてイタリアのシェフ達のレシピを見てまわると、モルタイオと呼ばれる大理石製の乳鉢でペーストにする方法が多く見受けられました。バジルはミキサーやフードプロセッサーの熱に弱い繊細なハーブですので、私も普段はすり鉢で作ります。ミキサーやフードプロセッサーなどを使用する場合は、器具のガラス容器を事前に冷蔵庫で冷やしておくことをお勧めします。

イタリアにはジェノベーゼ作りの世界大会があり、あらかじめ決められた食材を用いて、いかに美味しいペーストを作ることができるかを競うようです。その大会で使用される材料が、もっとも基本のジェノバ的なジェノベーゼと言っても過言ではないと思います。イタリア人が主催する世界大会指定の材料ですから(多種多様な家庭の味があるとは思いますが)。冒頭の動画は、その世界大会を運営する協会の会長、ロベルト氏自らジェノベーゼの作り方を紹介しているものです。

協会の公式ウェブサイトに一例としてのおおまかな分量がありました。日本国内では手に入りにくい材料も有りますので、全体のバランスを参考にすると良いでしょう。レシピにはありませんでしたが、松の実は乾煎りした方が香ばしくなりますのでお勧めです。文中の「D.O.P.」は原産地保護証明の略称です。

・ジェノバ産のバジル D.O.P. 60〜70g
・松の実 30g
・パルミジャーノ・レッジャーノすりおろし 45〜60g
・フィオーレ・サルド(羊の生乳を原料としたチーズ)すりおろし 20〜40g
・インペリア県ヴェッサーリコ産のニンニク 1〜2片
・天日海塩 (粗粒) 3g
・リーグリア州産 エクストラバージンオリーブオイル D.O.P. 60〜80cc

原文を引用しておきます

・4 mazzi (60-70 g. in foglie) Basilico Genovese D.O.P., garanzia della tipicità di profumo e sapore
・30 g. Pinoli
・45-60 g. Parmigiano Reggiano Stravecchio grattugiato
・20-40 g. Fiore Sardo grattugiato (Pecorino Sardo)
・1-2 Spicchi d’Aglio di Vessalico (Imperia)
・3 g. Sale Marino Grosso
・60-80 cc. Olio Extra Vergine di Oliva “Riviera Ligure” D.O.P., dolce e fruttato, esalta il profumo del Basilico e del condimento

Associazione Palatifini RICETTA DEL PESTO GENOVESE AL MORTAIO PER IL CAMPIONATO MONDIALE

次に、今回のタイトルにもある「バジルの湯通し」について話したいと思います。前述のジェノベーゼ世界大会ではこのバジルの湯通しは行われていません。伝統的なレシピにおいては「バジルは生のまますり潰す」というのが一般的です。しかし、バジルを湯通しすると、ペーストにした時の色味と口当たり、味わいが向上します。

バジルを沸騰したたっぷりのお湯に沈めて、彩度が上がったタイミングで氷水にとる。そうすることでバジルのえぐみが抜け、鮮やかな色を保つことが出来ます。菜箸でバジルの茎をつかんで完全にお湯に沈めながらしゃぶしゃぶすると上手くゆきます。しっかりと全体に熱がまわらないと逆に色が暗くなってしまう事もあるので、注意が必要です。私は未経験ですが、銅の鍋で茹でるときれいに発色するという話もあります。

湯通しが終わり、バジルが氷水の中で完全に冷えたら清潔な布やキッチンペーパーで水分を拭き取るか、味が抜けない程度にかたく絞ります。

たっぷりの湯(野菜の5倍以上)を用意するのは、入れたときの湯の温度の低下を防ぐためです。100度Cに沸騰した湯でも、量が少ないと、材料を入れたとたん50度C以下にまで下がってしまうことがあります。それが再び沸騰するまでの間に、酵素作用や、野菜から溶け出した有機酸の影響で色は悪くなり、組織がやわらかくなって、歯ざわりも低下します。 ゆで汁が少ないと、溶け出した酸の濃度も高くなり、好ましくありません。このため、少なくとも5倍以上の水を用意するようにします。 また、青野菜はふたを取ったままでゆでるのがよいといわれるのは、野菜自体に含まれているキ酸、酢酸、シュウ酸などの有機酸を少しでも空中へ揮発させて色をきれいに仕上げるのが目的だといわれています。

和食普及研究会 和食のこんな話、あんな話
色よく茹でるためには塩より水の酸度の方が重要です。茹でるには中性、もしくは弱アルカリ性の水を使うこと。さらには茹でる時に生じる有機酸の濃度を薄めるために、たっぷりの水を使いましょう。蓋は有機酸を揮発させるために締めない方がベターです。

食育通信online 青菜の茹で方 〜21世紀料理教室 その4〜

写真左が湯通ししたバジルです。右と比べて色味がまったく違う事がわかるかと思います。湯通しをすると野性的な香りは薄れますが、その代わりにえぐみが抜けるので、味わいにおいては有利になります。一度高温にさらすことによりバジルの酵素が失活し、鮮やかな色味を保つ事もできます。


写真左が湯通ししたバジルの葉を枝から外してすり鉢でペーストにしたものです。色味の違いがわかるように、どちらにもEXVオリーブオイルだけを混ぜました(チーズや松の実は入っていない)。右のペーストはバジルの葉を生のまますり鉢で仕上げたものです。右のペーストの方が褐変が進み、色味が若干濁った茶色に傾いていることが見てとれると思います。

クロロフィルの分解は、クロロフィル分解酵素によっても起こります。最初に短時間ゆでるなどして酵素を失活させると、ある程度退色を押さえることができます。

光合成質問箱 Laboratory of Plant Physiology, Waseda University 光合成の質問2005年

損失した香りについては、最後に生のバジルを飾る、あるいは皿に生のバジルを擦りつけるといった方法で補うこともできるので、この湯通しを行う方法も一つの手段として覚えておいて損はないと思います。

それでは最後に、この湯通しをおこなっているプロのレシピを見てみましょう。ご紹介するのはイタリア南部のティレニア海にある島、カプリ島でミシュランガイド二つ星を獲得しているレストラン「L'Olivo」のシェフ、アンドレア氏(Andrea Migliaccio)によるシンプルかつ独創的なバジルペーストのレシピです。

1 バジルを塩入りの沸騰したお湯にくぐらせ、氷水にとる。余分な水分を絞り、氷と共に攪拌機に入れ粉砕する

 - バジル 200g
 - 氷 30g

2 松の実、にんにく、塩、EXVオリーブオイルを加えさらに撹拌する

 - 松の実 50g
 - にんにく 1/4片
 - 塩 3g
 - EXVオリーブオイル 150g

3 最後にチーズを混ぜ、使用する。あるいは密閉容器に入れ、三日以内であれば冷蔵庫で保存が可能。

 - ペコリーノロマーノすりおろし 30g
 - パルミジャーノレッジャーノすりおろし 50g

失礼のないように原文を引用しておきます

1 Blanch the basil in salted boiling water, then refresh in iced water. Squeeze excess water and blitz in a blender with the ice

- 200g of basil leaves
- 30g of ice

2 Add the pine nuts, garlic, salt and extra virgin olive oil and blend

- 50g of pine nuts
- 1/4 garlic clove
- 3g of salt
- 150g of extra virgin olive oil

3 Finally, stir through the cheeses and use. Alternatively, store in an airtight container in the fridge for up to 3 days

- 30g of pecorino, grated
- 50g of Parmesan, grated

Great Italian Chefs Basil pesto by Andrea Migliaccio